見たり読んだり、なにか発見したり。

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 BL小説界でイチロー級の知名度と打率をほこる榎田尤利のデビュー作にして、いまだ最高傑作の声も高い「魚住くんシリーズ」の新装版(偶然にも村上春樹の「1Q84」と同じ値段、同じ上下巻)。本文は2段組、あわせて760ページ。各巻に書きおろしつき。
 上巻「夏の塩」は繊細な恋愛小説、下巻「夏の子供」は濃密なヒューマンドラマといった趣でしょうか。読み始めたら一気に引きこまれ、途中でやめることもできず、あれよあれよというまに

 ダム(涙腺)決壊。

 世に泣けるBLは数々あると思いますが、この作品は、ちょっと別格という気がする。シリーズ最初の話が書かれてから15年近くたっても、古さはまったく感じないし、むしろ(私がこの世界をまったく知らなかった)90年代半ばから2000年頃にはこういう骨格のしっかりした良質なBL作品が生まれる土壌があったのだと思うと、リアルタイムを知らずにきたことがつくづく惜しい。たとえば、よしながふみがBLを手がけたり、石原理が「あふれそうなプール」を描いていたのもこの頃だった。

 終盤、魚住が選択する自立の道は、「死んでるように生きていた」美貌の青年が「生きる意志をもって生きていく」強さを獲得したことをはっきりと示していて、こういう成長物語をBLで読んだのは初めてだった。榎田さんの文章は簡潔で読みやすく、たとえは変だが、すぐれた児童文学を読んでいるような高揚感もあった。考えてみれば、児童文学では「生と死」にがっつり向き合うテーマの作品が少なくない。
 
 恋愛成就に安住しないぶん、少しばかり切ない読後感もあるが、その切なさこそが「魚住くんシリーズ」が普通のBLに終わらなかった理由だと思う。ラストシーンに久留米の姿がないことも、ラブラブがお約束の世界では異質だし、読み手としては「ああ、ここで終わっちゃうのね…」という身を切られるような(笑)思いも。
 でも、長い物語を締めくくる魚住の台詞が、そんな読み手の気持ちをすくい上げてくれる。ラストシーンを書くのが好きという榎田さんらしく鮮やかな着地。
 2編の書きおろしも素敵な話で、こちらも最後の一文が残す余韻を堪能しました。

 毒を食らわば皿までもとばかり(ちがうか)、旧版のクリスタル文庫「魚住くんシリーズ」全5冊も中古で買ってしまった。場所を選ばず読むには文庫のほうが便利だし、新装版では抽象的なイメージの茶屋町勝呂さんの挿画も、文庫ではシーンに沿った具体的な描写で楽しめます。台詞の削除とか、細かいところが変わっているのが興味深い。一粒で二度おいしいと思いつつ、パラパラと読みくらべて楽しんでいます。 
 この作品、初出は「小説JUNE」ですが、今の業界にこういう作品が生まれる媒体はあるのだろうか。このボリュームでじっくり描かなければシリーズも成り立たなかったわけで、それを長期にわたって支える媒体がないと、結局は書き手も読み手も先細りだと思うのですが。 
 
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2009.09.18 / Top↑
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