見たり読んだり、なにか発見したり。

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 三浦哲郎氏逝去(8月29日、享年79)の悲報にショックを受けつつ、
 追悼として、本当に久しぶりに「忍ぶ川」(新潮文庫)を読む。
 初めて読んだのは10代の終わりくらいで、当時は正直、その味わいがよくわからなかったが、
 いま読むと、こまやかな感情がしみじみと染み渡る佳品だと思う。

 三浦作品といえば、長編「白夜を旅する人々」(1984年)が忘れられない。
 雪深い北国のお国ことばで紡がれる、悲しくもいとおしい、ある家族の物語。
 三浦さんは不幸な形でつぎつぎ兄姉を喪った生い立ちをもち、「忍ぶ川」をはじめ
 自身に流れる「血」について私小説的な手法で書き綴ってきたが、
 これらの作品が熟成され、渾身のフィクションとして実を結んだのが「白夜~」だろう。
 
 短編集「モザイク」や随筆の数々も好きだった。
 中でも、苦労の絶えなかった母親を題材にした作品がとくに心に残っている。
 私は、男にとって母親が特別な存在であると三浦作品から学んだ気がするし、
 歴代の芥川賞受賞者のなかで、まちがいなく一番読んだ作家だった。
 
 心よりご冥福をお祈りいたします。
2010.08.31 / Top↑
 7月の読書メーター
 読んだ本の数:14冊
  読んだページ数:2223ページ

 血わき肉躍る読書がしたいと思いたった今月。
 ものすごく久しぶりに「モンテ・クリスト伯」を通勤のお供にしたら、
 案の定ハマって、坂を転がるように読みきった。

 理不尽な仕打ちで人生を狂わされたエドモン・ダンテスの復讐譚、という印象は
 昔読んだときと同じだが、単なる「私怨」になってしまうと物語の底が浅くなる。
 どうしてそうならないのかといえば、ダンテスの復讐が常に「信仰心」とともにあったから。

 というのは、今回読んだ発見でした。
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2010.08.03 / Top↑
 BL小説界でイチロー級の知名度と打率をほこる榎田尤利のデビュー作にして、いまだ最高傑作の声も高い「魚住くんシリーズ」の新装版(偶然にも村上春樹の「1Q84」と同じ値段、同じ上下巻)。本文は2段組、あわせて760ページ。各巻に書きおろしつき。
 上巻「夏の塩」は繊細な恋愛小説、下巻「夏の子供」は濃密なヒューマンドラマといった趣でしょうか。読み始めたら一気に引きこまれ、途中でやめることもできず、あれよあれよというまに

 ダム(涙腺)決壊。

 世に泣けるBLは数々あると思いますが、この作品は、ちょっと別格という気がする。シリーズ最初の話が書かれてから15年近くたっても、古さはまったく感じないし、むしろ(私がこの世界をまったく知らなかった)90年代半ばから2000年頃にはこういう骨格のしっかりした良質なBL作品が生まれる土壌があったのだと思うと、リアルタイムを知らずにきたことがつくづく惜しい。たとえば、よしながふみがBLを手がけたり、石原理が「あふれそうなプール」を描いていたのもこの頃だった。

 終盤、魚住が選択する自立の道は、「死んでるように生きていた」美貌の青年が「生きる意志をもって生きていく」強さを獲得したことをはっきりと示していて、こういう成長物語をBLで読んだのは初めてだった。榎田さんの文章は簡潔で読みやすく、たとえは変だが、すぐれた児童文学を読んでいるような高揚感もあった。考えてみれば、児童文学では「生と死」にがっつり向き合うテーマの作品が少なくない。
 
 恋愛成就に安住しないぶん、少しばかり切ない読後感もあるが、その切なさこそが「魚住くんシリーズ」が普通のBLに終わらなかった理由だと思う。ラストシーンに久留米の姿がないことも、ラブラブがお約束の世界では異質だし、読み手としては「ああ、ここで終わっちゃうのね…」という身を切られるような(笑)思いも。
 でも、長い物語を締めくくる魚住の台詞が、そんな読み手の気持ちをすくい上げてくれる。ラストシーンを書くのが好きという榎田さんらしく鮮やかな着地。
 2編の書きおろしも素敵な話で、こちらも最後の一文が残す余韻を堪能しました。

 毒を食らわば皿までもとばかり(ちがうか)、旧版のクリスタル文庫「魚住くんシリーズ」全5冊も中古で買ってしまった。場所を選ばず読むには文庫のほうが便利だし、新装版では抽象的なイメージの茶屋町勝呂さんの挿画も、文庫ではシーンに沿った具体的な描写で楽しめます。台詞の削除とか、細かいところが変わっているのが興味深い。一粒で二度おいしいと思いつつ、パラパラと読みくらべて楽しんでいます。 
 この作品、初出は「小説JUNE」ですが、今の業界にこういう作品が生まれる媒体はあるのだろうか。このボリュームでじっくり描かなければシリーズも成り立たなかったわけで、それを長期にわたって支える媒体がないと、結局は書き手も読み手も先細りだと思うのですが。 
 
2009.09.18 / Top↑
 1986年刊。
 日本人として、死ぬまでに吉川英治とか司馬遼太郎とか読んでおかなければと思いつつ、気がつけばもう中年。わが半生に、時代小説はなかった。……遠い目。
 でも隆慶一郎は例外で、たった1冊ですが、前に「一流庵風流記」を手に取ったら、これがめっぽう面白く、ページをめくるヒマももどかしく、一気に読み終えてしまった。
 久しぶりに読んだ隆作品は、各所で絶賛されている小説家デビュー作。江戸初期、孤児として肥後の山中で宮本武蔵に育てられた剣士・松永誠一郎が、師の遺言で江戸・吉原に来て、そこで出会う老人・幻斎に吉原についていろいろ教えられ、一方では裏柳生との抗争に巻き込まれ、そこに誠一郎の生い立ちと、「神君御免状」たる謎の文書が絡んで……という話。
 これまた面白すぎて、通勤電車の中でガツガツ読みふけってしまった。畳みかけるような展開、史料を読み解いて独自に結論づける徳川家康の正体、吉原成立の秘密など、一瞬とも飽きずダレず、楽しいったらありゃしない。
 特に新鮮なのは、誠一郎が完璧なヒーローなこと。武蔵仕込みの剣は、天下無敵。迫りくる裏柳生をバッタバッタと斬り倒す。性格もよく爽やか好青年で、女にもモテまくり。こんな登場人物が活躍できる場は、時代モノかヒーロー戦隊モノしかありえない。

 こういう強い男が活躍する話、今の草食男子たちはどう思うのだろう。ぜひ彼らにも、ガツガツ読みふけっていただきたいところだ。フィクションの限りを尽くした、血湧き肉躍るワクワクを楽しむのが、時代小説の醍醐味(のひとつ)。わが半生に時代小説はなかったが、読めばハマるだろうという予感はある。そして、ますますオッサン化に拍車がかかるわけです。
2009.02.21 / Top↑
 2004年作。
 離婚経験があり、仕事にも興味を持てなくなった主人公(語り手)と、元ツマや大学時代からの友人、そのモトカノ、テンションの低いキャバ嬢ら、モロモロ傷を抱えながら生きる人たちのつながりを、過去と現在を交差させて描く。特に大きな事件は起きず、表情筋の乏しそうな登場人物がふと感情を見せる瞬間を切り取るさまが、相変わらずの長嶋ワールド。

 読んでる側も粛々とページを繰っていって、いつのまにやら読了、という感じですが、何を読んでもすとんと腑に落ちる、自分にとってはハズレのない作家のひとり。ただ、「サイドカーに犬」「ジャージの二人」のように、映像化したら面白いだろうと読み手に思わせるパワーには欠けるかも。

2009.02.11 / Top↑
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